原節子の怪演


 原節子の代表作は、小津安二郎監督の「東京物語」「麦秋」「晩春」、すなわち紀子三部作ですね。このころの原節子、というか、この頃の小津映画の中の原節子の上品な美しさは日本映画史の中の奇跡と言えます。本当に美しいです。

 はじめてこれらの映画を見たのは、1985年頃の銀座の並木座で、小さなスクリーンでフィルムの状態も良い方ではありませんでしたが、原節子の美しさは際立っていて、原節子のために書かれた脚本で、原節子のために撮られた映画なのだと感じました。

 実際のところ、小津安二郎は松竹の名監督で年間に何本も撮らない巨匠。原節子は東宝の看板女優のひとりですから、ライバル会社のその年のメインの作品に主演級で出演するということは、表に出てこないような複雑な事情があったことでしょう。

 日本テレビの「24時間テレビ」の司会をフジテレビのカトパンがやるようなものです。

 へんな例えですが。

 多くの映画で上品で静かな女性を演じる一方で、らしくない役柄も演じています。

 代表的なのが、黒澤明監督の「白痴」と稲垣浩監督の「日本誕生」です。

 「白痴」はドフトエフスキーの原作で舞台は北海道に置き換えられているものの、黒澤明のイメージは日本人というよりロシア人。森雅之は名演、三船敏郎は好演といえますが、原節子はちょっと不思議な感じです。

 「日本誕生」は東宝1000本記念の超大作で、日本の神話の映画化。原節子の役どころはなんと天照大神です。

 ロシア人とか天照大神とか、そういうイメージしにくい役柄は得意でなかったようです。

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